(8) 遂に咎められた

例えば、温泉コーナーの湯舟に仰向けになり浮かぶ行為、温泉コーナーのお湯が出てくるところを打たせ湯的に使い、お湯で頭を打たせる行為等、これらの行為がこの1、2年の間に咎められるようになった。それまで何も咎められなかったというのは、頭髪を湯船で洗うのとほぼ同じ不衛生な行為であると、それを見た客からクレームが入ったことで、それがきっかけで禁止事項となったのかもしれない。いや、もしかしたら、本来禁止事項なのに監視員の認識がなかった。もしくは、知っていたにもかかわらず注意することを怠っていただけか、単に監視員の意識のバラつきなのかもしれない。

 

これまで何も咎められたことがないのに、ある日突然、係員からお咎めを食らう。お咎めを食らったのが常連の年配者だと、咎めた係員に対し思わず反論してしまうようだ。このプールができて間もないころからほぼ毎日通い、ずっとしてきたことが何で突然やってはいけないことになるんだ。みたいに。

 

最近もこんなことがあった。

 

自ら率先して声掛けして、その場に似つかわしくない両手を使った握手と、とても大げさにひけらかすように挨拶を求めてくる初老の男性。この方も筆者よりだいぶ以前からの常連である。彼は上級者コースで数十分ゆっくりとクロールをされる。その際彼は、彼が独自に編み出した独特の癖の強いターンをかます。名付けてショートカットターン。これはタッチサイドの2、3メートル手前で泳ぎをやめてすっと立ち上がり、そこでくるりとターンするという何とも姑息なターンで、前の泳者が速いスピードでも、近道するので容易くすぐうしろにくっつかれるので、とても鬱陶しいのである。でも、彼の理論はおそらくこうである。つまり、彼は他の泳者のスピードの妨げにならないように、歩調を合わすためにやっているんだと。いつだったか筆者は彼から何気に質問されたことがあった。それは、そのショートカットターンが不快に感じるか的な質問であった。でも、それには正直に答えることができず、はぐらかした。彼はショートカットターンが不評を買っていることを、うすうす感じていたのだろう。だから、外堀を固めるみたいに自分のショートカットターンを正当ならしめようと何人かに意見を聞いて回っていたみたいだ。

 

でもつい最近、あまり見かたことがないかなりの上級者の親子3人が、そのショートカットターンにカチンときて、そのことを母親が新入りの監視員に告げ、遂にその初老のおじさんは咎められてしまった。遠目ではあるが温泉に浸かりながら一部始終を見ていたが、おじさんは顔を赤らめ例の常連によくありがちな急にお咎めを食らったことに対する反論を唱えはじめた。しばらく食い下がるように反論されていたみたいだが、何と心の強いことに、彼は泳ぎを再開した。

 

これであの不快なショートカットターンはなくなると思いきや、確かにショートカットはしないのだが、タッチサイドの数メートル手前で立ち上がり歩いてサイドにタッチするというこれもまた癖の強いターンが編み出された。途中で急に立ち止まり残りをコーナーまで歩くので、後ろの泳者は急激な速度ダウンを強いられる。それを見ていた監視員は、何も言わなかった。

 

癖のあるターンは続くだろうから、これからも筆者は彼と同じコースになることはない。